画集 『days in a place』 販売とお申し込み方法について
days in a place

はじめに

画家・向井三郎と、ブックデザイナー・岡本洋平は、向井三郎の絵画作品『日々の土地』を原寸大で再現する画集、『days in a place』を刊行いたしました。

向井の作品『日々の土地』は幅約2m、高さ約1mという木炭によるデッサンとしては大型の風景画ですが、細部にわたって緻密な描写が施され、一見しただけではそこに何が描いてあるのか理解できないほどの細密さが人を驚かせます。ただ、その細密さだけがこの作品の狙いではなく、等価値に描かれた部分部分が全体として一つの風景を構成していること、その構成の入念さが心を打つ仕上がりとなっています。

だれもがこの作品に出会ったときに感じる圧倒される思いを、デザイナーである岡本はより多くの方に味わっていただ きたいと考え、この作品だけを封じ込める一冊の本を制作することへ思い至りました。実物の作品をご覧になれない方にも、この画集で手元のページを繰りながら、作品世界の中を旅しているかのようなページ構成を実現しています。

向井三郎について

画家。1964年福岡生まれ、1989年東京藝術大学大学院美術研究科修了。1992〜1994年オランダ政府奨学金受給、ハーグ王立造形芸術アカデミーに学ぶ。
http://saburomukai.com

岡本洋平について

ブックデザイナー。1967年埼玉生まれ、1991年東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。同年、平凡社入社。1997年より岡本デザイン室を主宰。
https://www.okamotodesign.com

『日々の土地』について

『日々の土地』は千葉県北西部の向井の自宅の庭で描かれました。

A2ほどの紙を合計6枚使い、木炭を使って描かれています。サイズは幅2m、高さ1mと、絵画としては大型の作品といえるでしょう。実物を前にしてまず気が付くのは、その細部に至る描写です。


これほどの密度を持って描かれた、風景デッサンとしては大型の絵画作品は稀有な存在といえるでしょう。向井は木炭紙に木炭を使って描くという、いわば伝統的な美術教育の端緒となるような技法でこの作品を仕上げました。

一見しただけでは全体を把握できないこの細部描写は、観る人にさまざまな発見をもたらすでしょう。ある人は自分の庭を思い浮かべ、ある人は子どものころ遊んだ森を思い出し、木立や草葉の姿に人間そのものの姿を見いだす人もいるかもしれません。そしてそれはすべて正しい鑑賞と言えるのではないでしょうか。この作品を観る人がまるで作品の中を自由に旅し、その旅を自分の物語として紡ぎたくなるような、そんな包容力を向井作品の細部描写は宿しているといえるからです。

作品の制作について、向井の考えていること

「私たちの生きている世界は、常に目的に向かって進むようにされているところがあります。そこで必要とされるもの は費用対効果、効率、などといわれているものです。ただ、それだけでは世界のすべてが満たされるとは思えず、そこから零れ落ちるものを拾い集めることが自分の仕事ではないかと思っています。その零れたもの・時間の切れ端などを自分の身体を使って拾い歩き、世界の全体を恢復したいという気持ちが自分にはあります。……子どものころから急かされることが苦手で、時間とは誰のためのものなんだろう? という疑問がありました。だからこそ、世界全体の恢復とは、外的な要因ではなく自ら自分の身体をつかい、自ら自分の時間をつかうことでしかないし、そのために描いているのだと思います。その結果と言えるでしょうか……私の作品を観ながら問わず語りにご自分の物語を始めて下さる方がいるのです。そのことにいつも驚くとともに嬉しくその話を聞かせてもらうことにしています。私の作品が、観て下さった方自らが自分の時間を恢復させることにつながっているのでは、という希望をわずかに抱くからです。」

細部描写について

ヨーロッパ絵画では、バロック芸術以降の伝統にのっとり、1つの光源を設定することによって風景の奥行きを出す技 法が生まれました。ところがこの向井三郎の作品には光源が見当たらず、すべての存在を等しい価値を持つものとして描き出します。じつはヨーロッパ絵画においても、ルネサンス以前には細部へのこだわりを発揮する絵画の伝統がありました。向井がかつて留学した地・オランダには、15世紀ごろの画家ヤン・ファン・エイクが描いた作品群に驚くほどの細部描写が見られます。

私たちの国でも、いまや大変有名となった伊藤若冲の作品を思い浮かべれば分かるとおり、細部描写の伝統ははっきり存在しているといえるでしょう。若冲の作品はその根本に、日本の仏教で花開いた「草木国土悉皆成仏」という、心を持たなくてもすべての存在が成仏するという思想を持っているといわれていますが、向井のこの『日々の土地』という作品の中にも、若冲の『鳥獣花木屏風図』と同じ姿勢を見ることが可能なのではないでしょうか? 描かれたすべての存在を等価に扱う画家のまなざしをそこに見ることが出来るからです。

そして、画集『days in a place』は、この1つの作品のみを収める「画集」です。

画集『days in a place』について

通常「画集」といえば、1人または複数の画家の作品集として、多数の作品が収められているものです。ただしそれは、作品を縮小して収めるため、作品そのものは「イメージ」として扱われていることになります。

ところがこの『days in a place』は、『日々の土地』だけを扱う画集です。そして作品はイメージとしてだけでなく、画家の筆づかい、いや木炭づかいや息づかいを感じることが出来るように、まさしく原寸で収められています。圧倒的な細部描写へのこだわりと、そこに込められたあらゆる存在へのいとおしみ、その両者を読者と分かち合うための最適な書籍化といえるのではないでしょうか。

画集の造本について

画集のサイズはA4ヨコ。開いた際のサイズは幅594mmとなり、向井三郎の作品が目の前に広がります。この見開き状態の広がりは、凝りに凝った製本で実現します。一見すると通常の製本に見えますが、180度完全に開く「コデックス装」を採用することで可能となります。コデックス装は近年、製本状態がむき出しになる面白みで流行していますが、本来は左右のページの間の谷(ノド、といいます)を解消してひとつながりの見開きにするための製本です。この本ではまさしく絵画的な広がりを感じていただくためにコデックス装を採用しています。

そしてそのコデックス装の特徴である、「製本状態がむき出しの面白み」はこの本には不要で、それよりこの本が大事にされ、何年も愛されることを念頭に、本の背を丈夫なクロスで覆っています。本棚から何度抜き差ししても、変わらぬ姿を現すことでしょう。さらに、この背の文字はシルク印刷。これも繰り返し閉じ開きされることに耐えるために、他の方法、たとえば箔押しなどよりも優れていることから採用されました。

本体のページを覆う板のように厚いボール紙は、「ドイツ装」といわれるもの。大事な中身をしっかり折曲げから守るとともに、鋭利な造形で内容のシャープさを見事に表現しています。

これらの高度な技術をこともなげに実現してくれたのは東京都内の製本所・下島大完堂。ブックデザイナー歴 30年の岡本が他では見ることのなかった製本技術です。

本体ページで向井三郎の作品の再現に大きな力を貸してくれたのは数々の美術印刷・写真印刷で実績を持つ長野のオノウエ印刷。通常のオフセット印刷よりさらに高精細かつ柔軟な密度変化に対応するFMスクリーンでのオフセット印刷を採用し、驚きの再現性を実現することが出来ました。向井の画は木炭による単彩ですが、黒1色だけの印刷では色に深みが出ず、画がやせ細って見えるため、オールカラー印刷となっています。色については岡本とオノウエ印刷のプリンティング・ディレクターとの深いコミュニケーションによって満足のいく結果とすることが出来ました。

最後に

1つのアート作品、1冊の本が人生に大きく影響を与えることがあります。向井の作品と岡本のデザインしたこの本はそのような本になれるでしょうか。ひとつだけ言えることは、研ぎ澄まされた造形と質量を持つこのような本は、内容的にもこれまでどこにも存在しなかったし、Webや映像の世界がさらに拡大していく時代にあって、今後も生まれるのは難しいであろう、ということ。そんな稀有な画集をぜひお手元に。

ご購入方法について

画集『days in a place』は岡本デザイン室より1部3,000円でお求めいただけます。当サイトの「contact」よりご連絡ください。たくさんの方々に手にとっていただけるのを楽しみにしています。